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コラム COLUMN

がん患者の運動を地域で支える ― 医療とフィットネスが手を組む新しいモデル

2025年09月17日
投稿者 : フィットネスコンサルティングネットワーク編集部

がん治療において「運動」は単なるリハビリではなく、生活の質(QOL)や生存率を左右する重要な要素であることが、世界的な研究から明らかになってきました。しかし、実際に治療を受けている患者さんが退院後も安心して運動を続けられる環境は、まだ十分に整っているとは言えません。そうした中、埼玉県立がんセンターとフィットネスチェーン「カーブス」がタッグを組み、2025年9月16日から日本初となる新たな支援スキームを開始します。

 

がんと運動 ― 科学的に裏付けられた効果

 

米国がん協会(ACS)やアメリカスポーツ医学会(ACSM)は、治療中・治療後の運動が「倦怠感の軽減」「筋力維持」「睡眠の質の改善」「抑うつの改善」などに有効であると示しています。さらに、乳がん患者を対象とした研究では、週3時間以上の運動を行ったグループで死亡リスクが約半減したとの報告もあります。

日本でも2019年に「がんのリハビリテーション診療ガイドライン」が改訂され、さらに2024年には厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」で、筋トレと有酸素運動の組み合わせが推奨されました。つまり「がん患者さんに運動を勧めるのはエビデンスに基づいた医療」なのです。

 

それでも広がらなかった理由

 

問題は「継続の場」がないことでした。入院中は医療スタッフの指導のもとでリハビリが受けられても、退院後には安心して運動できる施設が限られてしまいます。自宅で一人で取り組むのは不安が伴い、結果として運動をやめてしまう方も少なくありません。

埼玉県立がんセンター整形外科の五木田茶舞科長は「治療中・治療後も、地域で安全に楽しく運動を続けられる仕組みが必要」と語ります。その課題を埋めるべく、医療と地域フィットネスの橋渡しとなるのが今回の新しいスキームです。

 

どういう仕組みか?

 

流れはシンプルです。まず医師が患者さんに合わせた「運動処方」を作成。患者さんが希望すれば、生活圏内のカーブス店舗でトレーニングを開始します。インストラクターは処方内容に沿ってサポートを行い、体調の変化や制限にも細かく対応。さらに、毎月の運動履歴や体組成データは病院と共有され、医師がモニタリングを続けます。

カーブスはすでに心臓リハビリや整形外科患者の受け入れ実績があり、医療的配慮が必要な方を安全に支援できるノウハウを蓄積しています。今回まずは埼玉県央の9店舗からスタートし、将来的には全国展開を視野に入れています。

 

社会に広がる可能性

 

このモデルが成功すれば、がん治療の新しい標準の一つとなるかもしれません。全国に約2000店舗あるカーブスのネットワークが医療とつながれば、患者さんは「病院の外」でも安心して運動を続けられる。結果として再発予防や介護予防にもつながり、社会的にも大きな意義を持つ取り組みになるでしょう。

 

がんという病気は身体的な負担だけでなく、心の落ち込みや孤独感も伴います。運動は体を動かすだけでなく、笑顔や前向きな気持ちを取り戻す力もあります。病院と地域が協力することで、がん患者さんの「生きる力」を支える。この試みは、医療と社会のつながり方を大きく変える第一歩となりそうです。